『KanonSS』


 まどろみの中で







 鮮やかな青空、セミの鳴く夏の朝。
 北国に属するこの街とはいえ、短くとも夏の気候は当然存在しており、街を夏の空気が包んでいた。太陽の光はこの街に似合わぬ激しさで、一日の始まりを勢いづけているかのように降り注いでいる。

 そんな中、相沢祐一と、美坂香里は並んで走っていた。

「はぁ、はぁ……何で、あたし達、走ってるのかしら」
「香里が時間を忘れて俺との会話を楽しんでいたからだ」
「……走って、なければ、思いっきり、殴っているところね」
 息も絶え絶え、という様子の香里に比べて、祐一は走りながら会話をするのも苦ではないようだ。これも日々の鍛練の賜物である。本人はやりたくてやっているわけではないと断固否定するであろうが。
「まぁ、時間を見ていなかったのは香里も俺も同罪だろう。あんまり怒るな。時間もないしな」
 祐一がペースを少し上げた。ほぼ毎朝ギリギリで登校している彼から見ても、相当時間は厳しいらしい。
 香里は何も言わず走ることに専念した。

 何故、この組み合わせの二人が朝の制限時間付きマラソンをやっているのか。それは、昨晩美坂家へとかかってきた電話に始まる。






 香里は、自分の部屋のベッドで横になっていた。先程まで数学の問題集を解いていたのだが、区切りがいいところまできたし、休憩していたのだ。
 寝返りをうってボーッと天井を眺めていると、部屋の外の廊下で、電話が鳴り出した。
「香里ー。今ちょっと手が放せないから電話に出てちょうだい」
 母の声に促され、香里は部屋から出た。電話の音が鮮明に聞こえるようになる。
 香里はそのまま電話へ近寄り、受話器を取った。
「もしもし、美坂ですけど」
「もしもし。えっと、香里か?」
「相沢君?」
 電話の相手は、親友の従兄弟で、妹の憧れの人、そして香里のクラスメート、祐一だった。
「おう。そうだ」
「どうしたの? 珍しいわね、電話してくるなんて」
「まあな。ところで今、すぐ側に栞いるか?」
「栞? 多分自分の部屋だと思うけど。替わる?」
「いや、別にいい。たいした事じゃないしな。香里でもかまわない」
「で、なんなの?」
 言外に「あたしは今忙しいのよ」というニュアンスを含めつつ香里が言った。
「今日、二人で家に来ただろ?」
「ええ」
 栞の病気が治ってから、暇があれば二人は祐一の家へと遊びに行っていた。もちろん、栞が祐一に会うために訪れるのに、香里が名雪にも会えるからついでに、という理由でついてきているのだが。
「それでな、多分栞のだと思うんだが、財布を忘れて帰ってるぞ」
「本当?」
「ああ。多分、勉強道具を出すときに鞄から抜け落ちたんだな」
 今日は、皆で勉強会のようなものをしていた。
 栞はほとんど一年学校に行っていなかったので、勉強に関してはかなり厳しい事になっている。だから、よく皆で勉強を見てやっているのだ。
 香里一人でも良いのだろうが、栞の祐一に教えてもらいたいという希望 ――香里があまりにも厳しいという理由ももちろんあったが―― により、よく水瀬家で勉強会は開かれていた。
「そう、教えてくれてありがとう。もう今日は遅いし、明日学校で渡してくれる? 栞にはあたしから話しておくから」
「それでは駄目だ」
「……相沢君?」
 香里が訝しがっていると、受話器の奥から「ふっふっふ」という笑いが聞こえてきる。
「明日の朝、俺が家まで届けに行ってやろう」
「はぁ?」
 思わず声が出た。
「別にそんな事しないでも、明日学校で渡せばいいじゃない。朝は病院で検査みたいだけど」
「しかしだな、自分の財布が他の人の所にあるというのは、意外と気持ちの悪いものだぞ」
 そう言われて、香里は自分ではどうかと想像してみる。そんなものかもしれない、と思った。
「確かにそうかもね。相手が相手だし」
「信用ないんだな。俺が中身を盗むとでも?」
「冗談よ」
 実際、祐一はそんな事は絶対しないだろうと、香里は思う。
「でも栞の場合、相手が相沢君ならむしろ喜びそうだけどね。『どうせ将来祐一さんと資産を共有する事になるんですからその予行演習ですぅ』とかなんとか言って」
「……香里」
 唐突に祐一の声のトーンが下がる。重苦しい空気が受話器から伝わってくるようだ。
「何よ」
「あのな」
 ここでいったん言葉を切られる。そして十分に間を置いてから、祐一は、はっきり丁寧に言葉を発した。
「全っ然似てないぞ」
「切るわよ」
「だあ! 待て、待てってば!!」
 本気で受話器を半分戻しかけていた香里は、こめかみを押さえながら再び受話器を耳に当てる。
「はぁ……別にいいわよ。間違いなく栞は狂喜乱舞するでしょうし。父さんも母さんも相沢君の事は気に入ってるみたいだし」
「おう、じゃあ明日の朝お邪魔するぞ」
「仕方ないわね」
「それじゃまた明日な、香里」
「おやすみなさい」
 プツッという音と共に電話が切れる。香里は溜め息と共に受話器を置いた。
「要するに、刹那の思い付きに命を懸けてるのよね、相沢君は」
 祐一の思い付きによる奇行は、もう慣れているところなので、香里はすでに納得していた。しかし、そんな事に慣れてしまっている自分に気付き、顔をしかめる。
「……毒されてきてるわね」
 そのまま香里は栞の部屋へと向かった。面倒ではあるが、知らせておかないとその方が面倒になるからである。




「で、本当に来るのよね」
「約束はできるだけ守る方なんでな」
 ソファーに座って優雅にコーヒーを飲む祐一を、香里がジト目で睨む。
 祐一の隣にはピッタリと栞がくっついて座っている。
「でも祐一さん、わざわざ届けてくれるなんて、嬉しいです」
 栞がにっこりと微笑みながらお礼を言う。
 電話の通り、ご苦労な事に祐一はいつもより早起きをして美坂家へとやってきた。祐一の持ってきた財布はすでに栞の手へと戻っており、朝の談笑タイムである。慌ただしい朝の水瀬家では絶対にならない状況に、祐一も上機嫌だった。
 ちなみに栞は、祐一が朝に訪れるという事が分かった瞬間に、夜中だというのに掃除機まで使った大掃除を始めて、ほとんど眠っていないはずなのだが元気いっぱいだ。愛のなせる業である。
「まあ、栞も財布が無いのは困るだろう」
「別にかまわないですよ。どうせ将来祐一さんと資産を共有する事になるんですからその予行演習ですぅ」
 なんというか、そのまんま『夢を見る少女』の顔をして祐一に寄りかかる栞。
 祐一は少し驚いたように香里の方を見る。
「凄いな香里。予想的中だ」
「嬉しくないんだけどね」
 香里は肩をすくめて、自分のコーヒーを一口飲む。
「でも一字一句すべて間違ってなかったんじゃないか?」
「余計に嬉しくないわ」
「なんの話をしてるんですか? 祐一さん」
「何でもないわよ」
 祐一に投げかけられた栞の質問に、香里が答えた。
「えぅー、ずるいです。お姉ちゃんと祐一さんの二人だけの秘密だって言うんですか。そんな事言うお姉ちゃん嫌いですぅ」
 栞がぷぅっと頬を膨らませ抗議してくる。
 祐一は栞のその様子に苦笑いを一つ。
「香里も大変だな」
「分かってくれる? 嬉しいわ」
「ああ! またですか。二人の間にはもう何も障害はないってやつですか。お姉ちゃんとはいえ許せません。私が障害になってやるです。略奪愛って素敵ですよね」
 祐一の腕に抱きついて捲くし立てる栞。もう既に自分の世界に入ってしまっている。
 香里は顔に手をかざし、上を向き、嘆いた。
「以前の栞は普通で、健気で、もっと可愛かったのに……」
「それは俺のせいだと言いたいのか」
「言葉通りよ」
「なんか馬鹿にされてる気がします。酷いです」
 栞は祐一の腕から離れ、コーヒーにばっこんばっこん砂糖を放り込み、かき混ぜ、ぐっと一飲みする。「うっ」と祐一が顔を歪めた。
「ところでお姉ちゃん」
 壮絶に甘いだろうコーヒーを飲み干してから、栞が香里に笑顔を向けた。
「何? 栞」
 栞は笑顔を崩さず、言った。
「もうこんな時間ですけど、学校はいいんですか?」
「え!?」
 祐一と香里は同時に壁にかかっている時計を見た。そしてまったく同じタイミングで叫んだ。
「遅刻だ!!」
「遅刻しちゃう!!」






「何とか間に合ったな」
 祐一が顔の汗を拭いながら言う。息が切れて声を出すのも辛い香里は声は出さず、頷いた。
 校門をくぐり、歩きながら体を休める。昇降口についた頃には香里も話せるくらいには回復していた。
「栞ったら、自分は病院に行くからってわざと教えてくれなかったわね」
「ああ。あの笑顔から察するに時間の事には気付いていただろうな」
 それでも、走れば間に合うくらいに教えてくれたのだから、良心は残っていたのかもしれないが。
「香里、大丈夫か?」
「え?」
「少しふらついてるぞ」
 言われた通り、香里の歩きは少しだけ頼りないものだった。これだけ全力疾走をしてきたのだから当然といえば当然かもしれない。
 祐一も同じように走ってきているはずなのだが、少し汗をかいているところ以外は、普段と変わりがなかった。陸上部の部長である名雪と朝走ってきているとはいえ、凄い事だろう。香里は少しだけ祐一を尊敬した。
「大丈夫よ」
「時間が無かったから、かなり飛ばしてきたからな。香里の事を気遣う余裕もなかったし」
「へえ、優しいのね」
「そ、そうか?」
 ぽりぽりと頬をかく祐一。
「冗談だから照れないの」
 そんな事を話しながら階段を上っていると、香里の隣を急いでいるらしい男子生徒が一人走り上っていった。
「きゃあ!」
 通り過ぎる際に接触したのか、香里がバランスを崩した。
 タイミングが悪かったのか、香里は態勢を立て直せず、そのまま足を踏み外し、階段を下に向かって落ちた。
「おい! 大丈夫か!?」
 階段中ほどから踊り場の手前まで落ちてしまっていた香里に、祐一が声をかけた。
「……ええ。大丈夫」
「ったく。ぶつかったくせに謝りもせずにいっちまったな」
 祐一が階段の上を見上げても、すでに香里にぶつかった生徒の姿はなかった。
 祐一は、地面にへたり込んだままの香里へ向き直り、手を差し出した。
 理解できていないのか、きょとんとして差し出された手を見ている香里に、祐一が言った。
「何やってるんだ。ほれ、掴まれ」
「あ、ありがとう……」
 少し顔を赤くし、祐一の手を取る香里。
「痛っ」
 立ち上がりかけた香里が、少しだけ顔をしかめて動きを止めた。
「どうした?」
「なんか、足くじいちゃってるみたい」
「歩けそうか?」
「……平気よ」
 そう言って香里は立ち上がり、階段を上ろうとする。
 しかし、足をかばいながら階段を上るその姿が、無理しているのを如実に語っていた。
「はぁ……」
 祐一は溜息をつき、香里の後ろから肩を叩いた。
「え、何?」
 そして、香里が振り向いた瞬間、香里の体は祐一に抱きかかえられていた。いわゆる、お姫様抱っこというやつだ。
「ちょ、ちょっと! 何するのよ!!」
「うるさい。保健室行くぞ」
 祐一はそのまま保健室へ向かって歩き出した。
「お、降ろしてよ。自分で歩けるから」
 香里が顔を真っ赤にしながら抗議するが、祐一はそれに真剣な顔で応えた。
「無理するなよ」
「え?」
「歩くの辛いんだろ? なら、少しは俺を頼ってくれてもいいじゃないか」
「……」
「俺に頼るのがそんなに嫌か?」
 香里は祐一の表情をみて、少し迷い、それからゆっくりと首を横に振った。
「よし」
「で、でも。……みんな見てるし」
 香里のこのセリフは、祐一にも聞き取れるかどうか判らないほど小さいものだった。
 事実、二人は通り過ぎる人すべての注目を浴びている。香里は体温が上がっていくのが自分でよく分かった。
「気にするな」
「無理よ」
「香里」
「何?」
「お前軽いな」
「何、言ってるのよ……」
 それから香里は何も言えなくなった。祐一も黙ったまま歩く。
 通りすがる生徒に決まって視線を向けられるが、祐一は気にした風もなく堂々と歩いてゆく。
 そのうち保健室が近くなり、辺りに生徒の姿が少なくなってくる。保健室は教室とは離れた場所にあるからだ。
 他の生徒の姿が見えなくなってから、祐一が唐突に口を開いた。
「香里」
「え、な、何よ?」
 祐一が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「顔、真っ赤だぞ」
「うるさいわね!!」
 さらに顔を赤くし、キッと祐一を睨みつける香里。それに対して祐一はこれ以上ないというくらい楽しそうに笑っている。
「はは、香里って可愛いな」
「こ、この……!」
「だあ! おい、暴れるなって!!」
 祐一から逃れようともがく香里と、必死になって香里を落とさないように尽力する祐一。二人の意味のない争いは充分に3分は続いた。



「まったく、落ちたらどうするんだ」
 香里は何も言わず祐一から顔をそらした。
「ま、いいや。保健室着いたぞ」
 保健室のドアの横には『責任者:五十嵐』というプレートがあった。
 祐一は両手がふさがっているので香里がドアを開く。
 その音に気づいたのか、中にいた保険医の五十嵐が二人のほうを向いた。
「ん。あら、いらっしゃい。どうしたのかしら?」
「こいつ、足挫いちゃったみたいなんで、見てやってください」
 祐一が中に入りながら答えた。
「そうなの。じゃあ、そこの椅子に座らせてあげて頂戴」
 言われた通りに、祐一は香里を椅子に座らせる。
「じゃ、君は早く教室に戻りなさい。遅刻だけどね」
「わかりました。失礼します」
 『遅刻だけどね』という言葉に少しだけ嫌そうな顔をしつつも、祐一は一つ礼をして保健室を出た。
「……さて」
 祐一がドアを閉めるのを見てから、五十嵐が香里の方へゆっくりと振り向いた。
「どっちの足?」
「右足です」
「ん。じゃ、靴下脱いで」
 言われた通り靴下を脱いだ香里の足に、五十嵐が触れる。その際に痛みのせいか香里の肩がピクンと震えた。
 五十嵐はそのまましばらく香里の足を診てから、手を離し香里を正面から見た。
「まあ、痛みはあるかもしれないけど、ただの捻挫よ。骨に異常はないみたいだし」
「そうですか」
「湿布張っておくわね」
 五十嵐は立ち上がって、棚から湿布を取り出してくる。そしてまた香里の正面へ座った。
「……んで、さっきの男の子は彼氏?」
「ふへ?」
 不意打ちだった。香里はその言葉の意味を理解するまでに3秒を要した。
「ち、違います!」
「へぇ〜、てっきりそうだと思ったんだけど」
「相沢君は……そんなんじゃ、ないです」
 五十嵐はその整った顔でニタリと笑う。
「それにしては、あんな風に抱きかかえられて来るなんてねぇ」
「あ、あれは相沢君が……っ!」
 突然足に感じた冷たさに言葉を詰まらせる香里。湿布特有の匂いが漂う。
「それに、外で仲良さそうに騒いでたじゃない」
「え!? 聞こえてたんですか!!」
「そりゃあ、すぐそこであれだけ騒げばね」
 香里は恥ずかしさのあまり、思わず赤面してしまう。
 五十嵐は再び立ち上がり、残りの湿布を元の場所に戻した。
「青春よねー。初々しくていいわぁ」
「だ、だから違いますって!!」
「まぁ、そういう事にしときましょうか」
 クスクスと笑いながら、五十嵐はデスクの上に置いてあったファイルなどを掻き集め、それをケースに入れた。
「これから私は用事があるから、ちょっと出かけるけど、もう少し休んでていいわよ。……あなた、名前はなんていうのかしら?」
「美坂香里です。美しい坂に、香る里」
 香里の言葉を聞いてサラサラと書きこむ五十嵐。
「ん、おっけ。一応『一限目終了まで使用』って書いといたから」
「は、はぁ」
「んじゃ、また今度あったら、彼とどこまで進展したか教えてね。香里ちゃん」
「ですからぁ!」
 香里が反論しようとしたときには、既に五十嵐は部屋を出てしまっていた。
 香里はがっくりとうなだれる。
「はぁ……今度は頭痛くなってきちゃった」
 香里は五十嵐の言葉に甘えて、ベッドで少し休ませてもらうことにした。


 香里はベッドに腰掛け、なんとなく窓から外を眺める。保健室はグラウンドに面しているので、体育の授業をしているのが見えた。
 夏の暑い空気の中、皆元気に走り回っている。特に珍しいこともない、日常の一コマ。
「授業サボっちゃったわね……」
 香里はボフッとそのまま後ろ向きにベッドの上へ倒れこむ。
 そして手の甲を眉間のあたりに持ってきて、そのまま目を閉じた。
 セミの声が遠くに響く中、香里の脳裏に浮かんでくるのは、ある男子生徒の顔。
 親友の従兄弟で、妹の憧れの人、そして、自分にとっては単なるクラスメート。香里にとって、そういう認識のはずの男の子。
「相沢君……か」
 名前を呟いてみると、それに呼応するかのように顔が火照ってきた気がする。
 他のことを考えて、頭に浮かぶ顔を振り払おうとするも、どうもうまくいかない。
 それを、先ほど五十嵐にからかわれたせいで、嫌でも意識してしまっているだけだ、と香里は自己分析した。
 しかし、ならば自分は祐一のことをどう思っているのか、その事へ香里の思考が進もうとすると、何故か頭が真っ白になって思考がストップしてしまう。
「何でかしらね……」
 呟き、寝返りをうって体を横に向ける。
 冷房の効いている保健室は過ごしやすい温度に保たれており、ともすると眠ってしまいそうなほど心地よい。
 香里は、いっそこのまま眠ってしまおうかと思った。
 眠ってしまえば余計なことを考えることもないだろうし、起きたときには元に戻っているに違いない。
 今の自分はかなりペースを乱されている。何でこんな事で悩まなければならないのか。
 自分は美坂香里だ。もっと冷静でなければならない。こんな事でうろたえるのは、あり得てはならない事だ。
 そんな事を考えるうちに、香里の心のモヤモヤとしたものがなくなり、落ち着いてきた。
 そうだ。眠ってしまおう。
 そう香里が結論付けると、自然と睡魔が襲ってきた。
 起きたときには、きっといつものように振舞える。次に五十嵐に会ったときにも、今度は取り乱さずに受け流すことができるだろう。
 香里はまどろみの中、眠りへと身をゆだねた。


 起きて相沢君に会ったら、まず一発本気で殴ってやろう。
 散々からかってくれたお返しだ。


 堅く心にそう誓ってから。









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