『オリジナル』


 転入生







 いつものように担任が教室に入ってきました。
 そのまま朝のHRが始まると思いきや、教師は多少静かになった教室を見渡し、こう言いました。
「今日は重要なお知らせがあります」
「お知らせって何すかー、センセー」
 教壇の目の前に位置する山本くんが聞きます。手をきっちり挙げている辺り、真面目な人のようですね。あるいは単なる馬鹿です。
 問われた教師はその年齢のわりには奇麗な顔に笑みを浮かべ答えます。
「実はこのクラスに転入生がやってきました」
「え、まじで!」
「いきなりだねー。そんな噂も聞かなかったし」
 教室が驚愕の事実に騒然とします。
「ざわ……ざわ……」
 などとブツブツ言っている阿呆もいるようですが、放っておいて先に進みましょう。
「いいからしずかにー。では入ってきて下さい」
 教師が促すとゆっくりとドアを開け、多少緊張した面持ちの生徒が入ってきます。
「おおおーーーー!!!!」
 男子生徒から歓声が上がりました。女子生徒はあまり面白くなさそうな顔をしているのがほとんどです。一部目を輝かせているのがいますが、そのケがあるのでしょうか。
 女子の制服を着て、学校指定の鞄を両手で体の前に持ち、長い髪をゆっくりと揺らしながら教壇にいる教師の横まで歩くと、自身に受ける視線に答えるように穏やかに微笑みました。
「おぉぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉ!!!」
 男子生徒が更に沸きます。突然立ち上がって「ずっと前から好きでした!」と叫んだ男子が周りの男子生徒から砂にされて窓から放り投げられたりして、凄い盛り上がり様です。ちなみにこの教室は3階ですが、下には中庭の池があったりするので運が良ければ助かるかもしれませんね。
「では自己紹介をお願いします」
「はい」
 教師の言葉に澄んだ声で答えて、黒板に名前を書いていきます。習字の先生になれそうなほど奇麗な字を書くので、教室の端々から感嘆の声も上がります。その後ろ姿を見て突然立ち上がり「オス! その素敵なヒップのサイズは何cmですか!?」と言った男子生徒が服を剥かれて足に紐をくくりつけ窓からバンジージャンプをさせられます。紐の長さを誤ったのか下の方から「ぐぎょ」というような声が聞こえましたが全然大丈夫。描写しなければ18禁にはなりません。
 名前を書き終えた転入生がチョークを置き、生徒達の方へ振り返ります。
 教室中の生徒が黒板に書かれた転入生の名前に注目します。そして皆一様に黙り込みました。それを合図に転入生がぺこりと頭を下げます。長い髪がふわりと流れました。


「はじめまして、今日から皆さんのクラスメートになる上岡洋介です」


 一瞬の間を置いて再び教室が騒がしくなります。
「これからよろしくー」
「仲良くしようねー」
「男みたいな名前だけど、ここまで奇麗な人だと似合うように思えるな」
 上岡はクラスメート達に微笑みを返します。この時またもや突然立ち上がった男子が「質問です! 前向きな答えを希望しますが盗撮しても宜しいですか!?」と言った生徒が(自主規制)な事になり窓からコードレスバンジーをかましましたが話に影響はありません。
 隣に立っていた教師が補足の説明を始めました。
「彼は両親の都合でこちらへ越してきたので、この街には詳しくありません。皆さん彼が困っていたら助けてあげて下さいね」
 再び教室に沈黙が降りました。皆一様にぽかんとした顔をしています。教師はそんな様子を気にもせずに上岡に話し掛けます。
「上岡くんはあの席ね。それにしても、どうして女子の制服を着てきたの?」
「こちらの方がデザインが好みでしたの」
「でもねぇ」
「男子が女子の制服を着てはいけないという規則はなかったはずですの」
「まぁ、そうなんですけどね」
「あ、あのー先生」
 放心状態から返った生徒が恐る恐る手を挙げました。教室内が多少ざわつき始めます。
「なんですか?」
「えーと。『彼』って? 何かの冗談ですよね」
 またもや教室が静まり返ります。誰かが息を呑む音を合図に先生が笑顔で答えました。

「冗談は貴方の遅刻回数だけにしてくださいね」

「なんですとー!!!」
 爆発が起こりました。感情の爆発です。それは内面にだけにはとどまらず、押さえ切れない魂の叫びが教室に響き渡ります。
「もう嫌だー!! 俺は死ぬ! 死んでやるー!!」
 叫んだ男子生徒が一筋の涙を軌跡に残しつつ窓という殻を突き破り、空へと飛び立ちました。
「俺はもう何も信じる事ができない!!」
「先立つ不幸をお許し下さい」
 それに引き続いて次々と大空へと羽ばたいていく男子生徒達。何故かそのたびに何かがつぶれるような音がしていますが、今日も良い天気です。
 反面、女子生徒達は先ほどとは打って変わって目を輝かせています。よだれを垂らしている輩もいますね。淑女の嗜みというのを覚えて欲しいものです。
 騒ぎが落ち着くと、教室の中には女子生徒と教師、そして上岡しか残っていませんでした。
「皆様どうしたのでしょう。私の事が嫌いになってしまわれたのでしょうか」
「そんな事ない! オールおっけー!!」
 首を傾げる上岡の言葉を、近くにいた女子生徒がすぐさま否定しました。それを聞いて上岡は安心したように表情を弛めます。
「それは良かったですの。これからよろしくお願いしますね」
 頭を下げた上岡に、女子生徒達が一斉に親指を立ててハードボイルドな笑顔を浮かべました。世界は今日も平和です。
「はい、じゃあもう授業が始まるので準備をして下さい。上岡くんは誰かから教科書見せてもらってね」
 教師はそう言い、教室から出ていきます。そして誰が上岡に教科書を見せるかという争いが始まりました。
 その様子を見ながら上岡は呟きます。

「皆さんいい人で良かったですの」




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 ちとギャグに徹してみたらこんな感じに。まぁ、『逢えば変する奴ら』の影響を受けすぎてるわけですが。









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