題名不定(募集中?)

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第六回〜。

7月17日  朝その二。

 放課後。
 空は燃えるように紅い夕焼けで、辺りには人の気配が感じられない。まるでこの校舎の中で俺1人になったような感覚。
 特に理由はない、が、なんとなくまだ帰りたくなかった。
 階段に到着。ふと立ち止まって逡巡。そして、踏み出す足は下ではなく上へ。
 やがて階段が途切れ、金属製の扉が目の前に現れる。
 開けた。
 吹き付ける風に目を細めた。前方には全てを紅く染め上げる夕日が見える。紅い空と校舎とを隔てるフェンスの前に風に髪をなびかせる人影があった。
 こちらに気付いたのか、人影が振り返る。
「……先生?」
 見知った人物だと分かった俺は、いつものように声をかけようと口を開く。
 が、結局何も言わずに口を閉じ、先生の前まで歩いた。
「何かあったんですか?」
 先生は何も言わない。何も言わず、その赤くなった目で俺の目を覗きこんでくる。
 俺は、先生の頬を伝う雫を指で拭った。
「何故、泣いてるんです?」
 先生は首を僅かに横へ振ったかと思うと、俺に密着してきた。腕は俺の背中に。先生の僅かな吐息を右の耳で感じる。仕方なく、先生の体を支えるように俺も腕を先生の背中へ。そのままの姿勢でしばし。
 ふっと体に感じる熱が引いた。先生は俺の胸に手を置く。その目線が俺のそれと重なる。
 先生が目を閉じた。
 夕焼けによって紅く染め上げられた屋上を見渡す。そして、ほのかに顔が赤い先生を見る。
 ――そうか、そういう事、か。
 俺は、自分が今何をするべきかを悟った。
 そして、それを実行するべく瞼を閉じた。






「そもそも、うちの学校は屋上には行けません。目を覚ませバカヤロウ」
 そう自分に呟きながら俺は目を開ける。見慣れた天井が目に入った。
 体を起こし、思わず嘆く。
「それにしても、とんでもないものを見てしまった……」
「何を見たの?」
「ああ、現実ではとてもじゃないが考えられないような、妄想いっぱい夢いっぱいな素敵なドリームを」
「ふーん。そういえば、夢って深層心理と深い関係があるっていうよね」
「今一番聞きたくない言葉だったよ、それ」
「どんな夢だったの?」
「ああ、それは先生が――」
「私が?」
 ……俺って、寝起きの言動にはもう少し気を付けた方が良いかもしれない。
「ねえ、私がどうしたの?」
「――先生が、ポーカーに負けた腹いせに突然服を脱ぎ始めてストリップを」
「すとりっぷ、って、あのストリップ?」
 俺は頷く。
「他にどのようなストリップがあるのか分かりませんが、そのストリップかと」
「え、え? あの、その。こら、いくら夢だからって人の裸を勝手に見るのはイケナイ事だと先生は思うよ?」
「どうして?」
「それはほら、えっと、そのー。どんな風に見えたのか気になるし、じゃなくて、その、もうお嫁に行けない? ……でもなくて。あのー、いいから忘れなさい。一秒以内に」
「先生。ちょっとした冗談だったんで、もうちょっと落ち着いて下さい」
「え、冗談?」
「はい、冗談」
 それを聞いて先生の呆然とした表情が崩れ、少し涙目に。
「ねえ、君。私をからかってそんなに楽しい?」
 物凄く楽しいかも。と思わず答えそうになるが、我ながら褒めたくなるような精神力でその欲求を押え込む。
「結構楽しいです」
「そういえば、今日も数学あったよね」
「まじでごめんなさい。わたしがわるかったです」
 怒涛の勢いで頭を下げる俺を見て先生は満足したように頷く。
「それでいいのよ。やっぱり生徒は先生の事をちゃんと敬わなきゃ」
「まずは敬われるような人物になってもらいたいものだよなー」
「なに?」
「いえなんでも。ところで先生。何か変な匂いしてません? 料理の途中だったとか、もちろんないですよね?」
 それを聞いた先生はばっと立ち上がる。
「そ、そうだった!」
 慌てて台所に向かう先生の背中を見送り、俺は思う。
「本当に作りに来てくれたのか……」
 俺はベッドから立ち上がり大きく伸びをする。

 そして、どこか浮ついた気分でいる自分に気付いた。




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 これぐらいの長さだと、小ネタ一個だけでも何とかなるもんですね。




7月26日  素香。

「なに考えてやがんだ山崎はー」
 愚痴りながら俺は机に突っ伏す。先程まで体育の授業があり、その内容は延々と校庭を走りつづけるマラソンという、フザケンナというか、かなり泣けてくる内容だったのだ。
「ふむ、とりあえず文句を言わせてもらう事にしようか。他人を巻き込むな馬鹿者。とりあえず後でジュースでも奢ってもらうぞ」
 顔を上げると幹久が俺とは違って平然とした顔をして立っていた。こいつは、やたらと体力あるんだよな。
「俺には何故お前がそこまで元気なのか分からない。……そうか、お前身体をショッカーに改造されてんだろ。そうだな? そうなんだな? マッハ8で走るし、ロケットパンチも撃ったりできるんだな?」
「お前の頭の方が改造されているように思うのだが。大丈夫かね? もしお前が良ければ評判のいい病院を紹介してやるが?」
「大丈夫だから、そんな必要はない」
「そうか、大丈夫か。もう現代医学では手の施し用のないところまで悪化しているのだな。残念だ。安心して死ぬといい。お前の事は忘れない」
「無性に目の前の阿呆を殴りたいです。誰か許可をください」
「承認します」
 その言葉を聞いてとりあえず幹久を「あちょー」と殴り飛ばす。
 幹久は盛大に仰け反ってから何事も無かったかのように体勢を戻し、ずれた眼鏡も戻し、先ほど殴るのを許可した人物に顔を向ける。
「秋月か。とりあえず思うに、君に俺を殴るのを許可する権限など無いはずだが」
「バカを殴るのに誰の許可も要らないと思いますけど」
「なんと、まぁ。酷いと思わないかね?」
 幹久が同意を求めてくるが、寝言は寝てから言うべきなので、無視しておく。
「それで、秋月さんは何か用なの?」
「ええ、大した事ではないのですけど」
「おい、無視かね」
 やはり幹久の言葉は無視して、俺の席の隣に立っている女生徒、秋月素香さんはセミロングの髪を指先で弄りながら聞いてきた。
「なにか、やたらと男子達が疲れているようですけど、何をやってたんですか?」
「ああ、聞いてくれよ。山崎の野郎が何を思ったのかマラソンの練習だとか言って、時間中校庭を走らされたんだよ。誰も倒れなかったのが奇跡だ」
「このクラスの男子は何かの冗談みたいな人達ばかりですからね」
「なるほど、馬鹿に限界はないってやつだな」
「貴方もその中に入ってるんですよ?」
「心外だ。俺は他の奴と違って普通だぞ」
「冗談ですよ」
 よかった。俺まで秋月さんにそう思われてるんだったら、泣きが入るところだ。
 胸をなで下ろす俺を見て、秋月さんがクスクスと笑う。
「それはともかく、今日はサッカーをするのではなかったのですか? そのような話を聞いていたのですけど」
「いや、それがいきなり予定変更だとか言って……なんでだろ」
「だから先ほど言ったろう。他人を巻き込むな、と。お前のせいだよ」
 横から幹久が会話に割り込んできた。
「俺のせい?」
「どういうことです?」
 秋月さんも首を傾げている。どういう事だ?
「俺の情報網を侮ってもらっては困る。昨日の職員室、だ」
 昨日の職員室? 俺も確かに行ったけど……って。
「あ」
「分かったかね?」
「マジであれが原因?」
「ああ。山崎先生が授業が始まる前、意気込んでいたよ。『我々のアイドルを泣かした罪はコニシキよりも重い』とかなんとか」
「だから、どういう事なんです?」

 秋月さんが聞いてくるが、答える気力も無く俺は再び机に突っ伏した。



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 そろそろ新キャラ追加だよなー、みたいな。




8月5日  理由。

「あの、ちょっと問いただしたい事があるのですけど」
 HRが終わった後、帰りの支度をしていた俺に、秋月さんはこう言ってきた。
 何やら表現的に良い質問ではなさそうだ、と思いつつ、聞いてみる。
「問いただしたいって、何を?」
「ここではあれですので、帰りながら話しませんか?」
 そう言って秋月さんは俺の返事もまたずに教室から出ていこうとする。俺は急いで鞄に教科書などを詰め込んで後を追った。


 学校の校門から出て、秋月さんの隣を歩く。
 秋月さんとは、家の方角が同じで、実は小中学校も俺と同じだったらしい。
 らしい、というのは、今年になるまでまったく交流がなく、全然知らなかったからだ。
 教室から出て、まだ秋月さんは一言も喋っていない。視線は幾分下を向いていて、こちらを見ようともしない。なんとも妙な雰囲気だ。
 隣を歩く姿を観察してみる。身長は155くらい、全体的にほっそりとしていて、静かなイメージを受ける。例えるならば、深窓の令嬢。しかし、良く考えれば、彼女の家は実際に裕福なようだし、しつけも厳しいようなので、お嬢様というのは間違っていない。実際に、仕草や喋り方はお嬢様のそれだし。口調が柔らかくても内容はキツかったりするけど。
 髪は肩で切り揃えられていて、色は漆黒。染めたりするのは、さすがに親が許してくれないのだろう。彼女自身もそういうのは嫌っているようだったし。
 瞼は二重、少しだけ切れ長な目に、どことなく遠くを見ているような瞳が印象的だ。他の顔のパーツとのバランスも良く、正直言って、美人である。そういえば、ファンクラブもあるんだっけか? よく知らないが。っていうか、先生といい、秋月さんといい、奇麗なのは確かだが、ファンクラブがあるってのはいきすぎじゃないのだろうか。うちの学校どうなってんだ? ……まぁいいや。
 ……って。
「あの。私の顔に何か付いていますか?」
 いつのまにか秋月さんがこちらを見ていた。というか、俺が気付かずにジロジロと顔を見ていたのか。
「あー、いや。秋月さんは相変わらず奇麗だな、と」
「お世辞、言っても何も出ませんよ?」
「お世辞なんかじゃないんだけどなー」
 秋月さんは呆れたように溜め息を付く。何故。
「まぁ、いいです。それで、聞きたい事があるのですけど」
 ようやく本題に入るようだ。
「気になってたんだけど、いったい何? あ、スリーサイズは秘密だぞ。でも秋月さんのを教えてくれたら――」
「馬鹿な話はバカと話す時だけにしてください」
 ピシャリと言い放たれた。幹久よ、残念ながらお前の呼称は、もう『バカ』から変わる事はなさそうだぞ。ざまあみろ。
「それで、聞きたい事ってのは?」
 秋月さんは、手を口の前に当て、少し考える素振りをする。
「たいした事ではないのですが……」
「うん」
「先生と同棲しているというのは、本当なのですか?」
「うん?」
 どうせい。同棲? 先生と? 先生って、先生、だよなぁ……
「いえ、答えたくなければ答えなくて結構です、差し出がましい事を聞いているのはこちらなのですから」
 考え込んだ俺を見て、秋月さんは何を勘違いしたのか顔を赤くして手をパタパタ振っている。おー、秋月さんが取り乱すなんて珍しいなぁ。これは良いものを見た。
「えっとさ。どこで聞いたの、その噂。っていうか、秋月さん、そういう噂なんて、気にしない方だと思ってたんだけど」
 っつか、昨日の数学の時間と、放課後に先生に呼ばれたくらいの話から、どうやったら同棲まで行き着くんだ。噂っていうのは恐ろしい。
「ち、違うのですか……昨日の職員室で先生を泣かした、と聞きましたし。それに、バカがそうだと言っていたもので……」
「人為的かよ。秋月さん、それ、後半部分は真っ赤な嘘だから」
 あの阿呆めが。今度メガネの事を思いっきり馬鹿にしてからかってやる。
「で、でも、やたらと先生と仲が良いですし……」
「そんなに仲良さそうに見える?」
「見えます。先生は貴方にしかああいう態度は取りませんし、貴方にしても楽しそうですし……」
 確かに、それは言えてるかもしれない。
「何でなんだろうな」
 無意識に疑問を口にしていた。
「はい?」
「いや、もしそれが本当なら、何で先生は俺に対してだけそういう態度を取るんだろうな、って事」
「……」
 本当、なんでだろう。


 その話題はここで終わり、しばらく世間話をして、俺は秋月さんと別れた。




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 この組み合わせはギャグに持っていけない。

 それにしても、ヒロインなのに先生って出番少な目ですね(笑




8月23日  うどん。

 偶然というのは、それなりに起こり得るものだろうと、俺は思った。とりあえず、今こうしているのが、運命であるなどと言ってしまうと、安っぽく思えてしまうがゆえにそんな事を思うのだろうが。
 先生と俺はテーブルが挟んで向かい合っている。テーブルの上には、俺の方にザルうどんと、先生の方に暖かそうな湯気を出しているかけうどんがある。先生は一本一本箸で麺を掴んで、ふーふーと息を吹きかけながら食べている。
 先生から視線を外し、店内を見渡す。昼飯時だからか、空いている席は少ない。
「先生」
「なーに?」
 俺の言葉に反応して、麺をすするのをやめて、上目遣いでこちらに顔を向けた先生に一言。
「曇ってます」
「え?」
「メガネ」
「そうね、おかげで視界が真っ白」
 そう言って笑ってから、再び麺をすするのに専念しだす先生。
 俺はなんとなく溜め息をついた。
 何故こういう状況になったのかを簡潔に説明すると、休日になんとなく外をうろついていたら、たまたま先生と遭遇し、
「君、もしかしてお昼御飯まだ食べてない?」
「まだですけど」
「じゃあ一緒にどこかで食べよっか? 奢っちゃうよ」
「あぁ、この運命に感謝致します。ありがとう神様」
「うーん。感謝する対象を間違っているような気がするんだけど?」
「さあ先生。私はどこへでも付いてまいりますので、早速出発いたしましょう」
 そんな会話があって、今に至る。
 しかし、まぁ。
「文句を言える立場でもなければ、感謝もしていますが、何故にセルフうどん……」
 先生が俺を連れてきたのは、最近になって近所にできた、「うまい、やすい、はやい」「100円から〜」が売り文句のセルフうどんチェーン店。
 こう、なんというか、アレだ。
「君の家に行く途中にこの店の前を通るのよ。それで気になってて」
 俺の呟きが聞こえたのか、再び先生が上目遣いで顔を上げて応えた。
「なるほど、確かにここなら経済的にも優しい。それで先生」
「どうしたの?」
「メガネが曇ってますが」
「そうだね。って、さっきもやったよね、このやり取り」
 なるほど。そういえば、この人はこういう人だった。
 そう悟った俺は、不思議そうに首を傾げている先生のメガネを指差した。
「メガネ、外すか拭くかしたらどうです? 食べにくそうですし」
 俺の言葉を聞いて初めて気付いたかのように「あ」と声を上げる。
「早く言ってくれれば良かったのに……」
 いえ、それぐらい自分で気付いて下さい。などと思ったが、いかにも先生らしいな、と思う事にした。
 先生は箸をいったん置いて、メガネを外した。そして三度うどんをすすりだす。ちなみに俺の方は既に食べ終わってしまっている。
 それにしても……
「ん、どうしたの? 私の顔になんか付いてる?」
 俺が見つめ続けていたのに気付いたのか、先生が聞いてくる。
「いえ、メガネ外した先生って初めて見ましたが」
「見ましたが?」
「……一本一本そんなにゆっくりうどん食べてると伸びちゃいますよ」
「うーん、確かに食べてるうちに増えちゃうんだよね……って、違うでしょ」
 ノリが良い人だ。天然なだけのような気もするが。
「えっと。ただ単に、先生の素顔が新鮮に見えただけです」
「確かに、メガネだけでも印象は変わるから。ねぇ、これは興味半分に聞くんだけど」
「なんです?」
「メガネ、掛けてるのとそうでないの、どっちが良いと思う?」
 何を聞いてくるんだこの先生は、と思ったが、正直に答える事にした。
「どっちでも先生なら、奇麗だと思いますよ」
 俺の言葉に少しだけ先生は頬を赤くする。動揺しているのか、右手に持った箸が、妙な軌道で動いている。面白いかもしれない。
「そ、そうかな?」
「はい。どちらでも十分に可愛いと思います。思わず好きになってしまいそうです」
「えぇ!? だ、だだ、ダメですよ、ほら、えーっと、なんというか、とにかく、色々あるよね、こう。えっと……」
 さらに動揺したのか、箸の動きが早くなった。心なしか、視線も泳いでいる。
「先生」
 俺は先生の瞳を真っ直ぐ見詰める。
「な、な、なに?」
「箸を振り回すのは、行儀が悪いですよ」
「へ? あ、う、うん、そうだね。あ、あはは」
 先生のその様子を見て、我慢しきれずに思わず吹き出す。それを見て先生が声を上げる。
「あー、またからかったでしょー!? 酷いなぁ、もう」
「別に、特に嘘は言って、ないですよ」
 くっくっく、と笑いながら弁解したが、先生は拗ねたようにうどんをすすり始めた。




「ねえ」
 店を出て、並んで道を歩いていたら、先生が俺の顔を覗きこんできた。もちろん今はメガネを掛けている。
「なんですか?」
「本当は、どっちが良いと思ったの?」
 俺は立ち止まる。先生も立ち止まった。先生の顔を見、ふむ、と頷いた。

 そして、そのまま先生の額へデコピンを放つ。



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 いえ、ぶっかけうどんは美味いなぁ、などと思ったので書いてみました。




9月11日  昼寝。

 昼休み。
 購買で買ってきたパンを、一緒に購入してきたコーヒー牛乳で胃の中に詰め込んでいると何故か突然囲まれた。
 クラスメートの奴等が4人。後ろに1人、左右にも1人、そして机を挟んで正面に1人。
 何事だこれは。
 訝しく思っていると、正面に立っている男子生徒がバンと机に手を突き、有無を言わさぬ調子で口を開いた。
「Aコース、Bコース、Cコースとあるがどれが望みだ。ちなみにAコースはここにいる全員から笑顔で延々と殴りつづけられる。Bコースはここにいる全員から笑顔で延々と殴りつづけられる。そして、Cコースはここにいる全員から笑顔で延々と殴りつづけられる、だ。さてどれがいい」
「貴様が目の前からいなくなるZコースなんてのは用意されてないのか?」
「Zコースは全裸に剥いて校舎中を『私は露出狂です』という紙を張ったまま引き摺り回して校庭にある校旗なんかを掲げるポールに縛り付けて羞恥プレイの刑なのだが、それを望むのか。実はあまりに酷いから没にしておいてやったのだが。これまたぶっ飛んだ趣味を持ってるんだな」
「お前が飛べ」
 とりあえず机の下から目の前の男の口に出しては言いたくない部分を思いっきり蹴り上げてから後ろを向いた。
「幹久、何のつもりだこれは」
 俺の後ろで面白そうに状況を見ていた幹久に聞いてみる。
「面白そうだから見学しているだけだ。俺は関与していない」
 そう言って肩をすくめる。どうだか。
 幹久を睨んでいると、右側に位置していた一人が床に沈んだ奴の代わりに正面に回った。
「お前には弁明の機会を与えてやる。しかし、弁護士を呼ぶ権利もなければ、黙秘権を行使する事も許されない。オーケー?」
 オーケーじゃない。と思ったが、とりあえず話は聞いてみる事にした。
「弁明? なんの」
 目の前の男子生徒はニタリと口の端を上げる。
「昨日、先生とデートをしていたという噂は本当かね」
 デート? 何の話だろう。
「何の事かさっぱり分からない」
「とぼけるのか。昨日、先生とお前が一緒にいるところを見たと、ある筋から目撃情報が入っているのだが」
「……確かに一緒にいた時間はあったけど、デートじゃないぞ」
「半殺し確定」
「何故に」
「素直にデートだったと言うのなら全殺し、嘘でも本当でも違うと言ったら半殺し」
 ボコるのは確定ですかー。
「我々は! 秋月嬢だけならず先生までも毒牙に掛ける貴様を駆除せねばならんのだよ!」
 何故そこで秋月さんまで出てくるんだ。
 周りを見ると、聞き耳を立てていたのか瞳を閉じて深く頷いている男子生徒多数。
「まぁまぁ、君たち落ち着きたまえ」
 幹久が割って入ってきた。手で「落ち着け」となだめている。幹久が普通に俺の味方をするとは珍しい。
「いいかね。君たちは先生とコイツがデートをするような関係だと思っているようだが、少し勘違いをしている」
「勘違い?」
 殺気立っていた目の前の男も幹久の言葉に耳を傾けている。
 幹久は「うむ」と肯定してから仰々しく言った。
「そうだ。コイツと先生はデートなんてする必要も無いくらいにふかーい信頼関係をすでに築いているのだからな」


 コークスクリューでぶっ飛ばしました。




 面倒を避けて教室から逃げ出してきた俺は、昼休みの終わりを告げるチャイムを聞きながら、この時間は使われていなさそうな教室に忍び込んだ。
 今から教室に帰るのもあれなので、久しぶりにサボる事にしたのだ。
「ふあー」
 昼休みも終わったので、辺りは静かだ。
 思いっきり欠伸をすると、適当な椅子に座り、一眠りする事にした。



============

 しまった。屋上を使えなくするんじゃなかった。







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