題名不定(募集中?)

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第11回〜。

11月2日  どーしたものか。

 ゆっくりと目を開けた。
 突っ伏した状態で寝ていた為か、腰と首が少し痛い。それに、体全体を気だるい感覚が覆っている。
 時計を見てみると、午後の授業もすべて終わってしまっているようだ。
 それにしても、嫌な夢を見たものだ。最近は見なくなっていたのだが。
 大切なものが自分を裏切り、去っていく。抽象的な、起きてしまうとほとんど思い出せなくなってしまうような夢。不思議な事にそれを見ているとき、自分を苛んでいるのが何故か『悲しい』という感情ではない事だけは覚えている。
 何にせよ、面白くない。授業をサボったりするから罰が当たったのだろうか。
 ふと気付き、目元を擦ろうとするが、やめた。
 アクビを一つ。
 これでこの跡は欠伸のせいだという事になる。
 窓から外を見ると夕焼けだ。涙で潤んでいる目に紅い光がぼんやりと光って見える。
 思いっきり体を伸ばすと、今度は自然に欠伸が出た。
「……帰るかね」
 俺はそう呟いて席を立ち、後ろを向いた。


 そのまま360℃回転して再び机に突っ伏した。


 大丈夫。落ち着け、落ち着け。混乱しつつある自分にそう言い聞かせ、気持ちを静める。
 目尻を指で拭う。もうほとんど乾いてしまっているようなので、これで大丈夫だろう。目がどうなっているか確認したいと思ったが、鏡が無いのがのに気付く。多少不安だが、仕方がない。赤く腫れぼったい目、なんて事にはなってないと、思う。
 最重要事項を確認し終えた俺は、再びイスから腰を離して振り返る。一度大きく息を吸って、話し掛けた。
「先生。どうしたんですか、こんな所で」
 何故か机の下に隠れようとしていた先生の動きが止まる。机の下から尻だけ出ている。
 馬鹿かこの人は。
「先生にそんな特殊な趣味があったとは」
「ちょ、ちょっと待って何か誤解があるよ!? って痛っ!」
 どうやら慌てて起き上がろうとして頭を打ったようだ。
 俺が呆れた目で先生の尻を眺めていると、ゆっくりと机の下から先生が出てくる。
 涙目で打ったらしき頭を撫でている。どこまでも天然だなこの人は。
 俺の視線に気付いたのか、先生は何かが一本抜けてしまったような笑顔で「あははー」と笑う。
 その笑みはいつもの先生のものだ。
「で、結局何をしてたんですか」
「えーと、かくれんぼ、かな?」
 先生は首を傾げながらそう言った。それから2人で沈黙。
「……」
「……」
「……」
「もう! ノリが悪いよ!」
 沈黙に耐えられなくなったのか、先生が赤面して俺に食って掛かる。
「もしかして、突っ込み待ちでしたか?」
 しれっと言ってやると、先生は「うー」と拗ねたように唸る。
「って、そんな事より!」
 オホン、と先生はごまかすように咳払いをする。
「君、授業サボったでしょ」
「あー」
「『あー』、じゃないでしょ」
 こつん、と軽く頭を叩かれた。
「別に一回くらいサボっても問題ないんじゃ」
 いつもサボっているわけじゃない。むしろ授業にはまじめに出る方なのだ。幹久なんかは割とサボっているようだが。
 俺の言葉を聞いて、先生は意地の悪い笑みを浮かべた。
「私の授業だったのに?」
「寝すごしたんです。わざとじゃありません」
「ふーん、良い御身分ね。それはさぞかし良い夢を――見てたんでしょうね」
「熟睡でしたし」
 肩をすくめる。先生のセリフが少し止まった事には、気付かない振りをした。
「まぁ、いいわ。もうこんな時間だし、帰る?」
「そうですね、帰りますよ」
 先生に背を向けて、教室から出るために歩き出す。


 だから、このとき先生がどんな顔をしているのか、俺は見る事は無かった。




============

 久しぶりにこんな感じに。

 なんか長文が書けない病気にかかったっぽいのでリハビリですな。




1月1日  和尚がツー。


 俺は何処で道を誤った?
 今の心境を簡潔に表すとこんな感じである。というか、これ以外にない。
 一人暮らしをはじめてから最初の年越し。平穏無事に、何事もなく、そしてマッタリと、ダラダラとテレビでも見ながら寝正月を楽しもうと思っていたのに、この惨状は何なのだ。
 本当に寝正月をするつもりだったのだ。実際、幹久が家に来るまではコタツで温まりながらボーっとしていたのだ。
 なのに何故俺はこのような不幸に見舞われているのだろうか……

 最初に先生が家に来たのはいいとしよう。そのあとに秋月さんが家に来たのも、まぁ、良しとしよう。最近はちょくちょくと秋月さんも家に来るようになっていたのだ。たいてい幹久や先生も一緒なので、単に溜まり場になっているだけだろうが。
 家族のことはいいのかと秋月さんに聞いてみたら、「親戚達が集まってはいますが、同年代がいないのです。つまりは、退屈なのです……」と言っていた。
 そして、グータラな正月を送ろうとしていた俺は、ろくな食い物も何も用意しているはずもなく、見かねた先生が、
「ダメだよー、君。こういう時でもちゃんと食べないとー。私がお雑煮でも作ってあげるね。ちょっと材料とって来るから待ってて」
 などと言って、出て行ったのも良い。普段の言動からすると疑問だが、先生の料理は文句なしに美味い。
 問題は、先生が出て行ったのと入れ替わりに来て下さりやがった幹久である。不幸その1だ。
「あけましておめでとう。今年も俺の下僕として頑張りたまえ」
 扉を開いた瞬間にそんなことを言った幹久をとりあえずぶん殴っておいてから部屋に招きいれたのだが、それが良くなかった。そのときに俺は、幹久が持っているものに気付くべきだったのだ。
 そして、俺の部屋の中には今秋月さんしかいなかった。不幸その2だ。
 幹久は、俺の部屋に入り、秋月さんの姿を確認するなり、こんなことを言い出したのだ。不幸その3。
「やぁ、秋月嬢。正月早々家族を放っておいて意中の君に会いに来たのかね? これは初々しいではないか! 盛大に祝ってさしあげよう、あけましておめでとう!」
 秋月さんが顔を赤くして口をパクパクさせているのを見ながら、ドン、と幹久がテーブルの上に持っていたものを叩きつける。

 ……一升瓶だった。


「貴方は人の話を聞いているのですか!」
 自分を責める言葉に、俯けていた顔を上げる。
「いや、聞いてる、聞いてる」
「ふん、貴方は先ほどから何かの仕打ちに耐えるかのように俯いていましたね? それで本当に私の話を聞いていたのですか?」
「あ、あぁ」
「では先ほど私が述べていた内容を、要点を明確にし、私が満足するように、文字にして400字程度にまとめて御覧なさい。さぁ今すぐに」
「あ、あのさ、秋月さん……」
 そう、今目の前で機関銃のように言葉を吐き出しているのは、あの秋月素香嬢である。まるで悪い夢のようだ。
「なんですか。口答えは許しません。やはり私の言葉など聞いてはいなかったのですね。そうですか、分かりました。そのような方にはやはり罰を与えなければいけませんね」
 そう言って、心底楽しそうに微笑んだ。
「あぁ、何故でしょう。そう思うと体の芯がゾクゾクとしてしまいますわ。不思議ですわね。さあて、どのような罰がいいでしょうか。ふふふ……」
 ヤバイ。あの御顔は本気だ。「本気」と書いて「マジ」と読むくらいに本気だ。背中を嫌な汗が伝う。
 助けてくれる人物はここにはいない。先生はまだ帰ってきていないし、幹久にいたっては、最初の台詞にキレた秋月さんにKOされて部屋の隅で伸びている。
 俺は、このままではいかぬと突破口を開くため口を出す。
「ねぇ、秋月さん。ちょっと酔っ払って、何でもないのに興奮してるんだよね? だからさ、ちょっと落ち着こう。いつもの凛とした秋月さんに戻ろう。ね?」
「私は、酔ってなど、いません!」
 優しくなだめるように言った俺を、秋月さんはキッと睨む。
 これが素の秋月さんだったら嫌だよ俺……本気泣きしちゃうよ? 学校の奴らなんて、世を儚んで旅に出てしまうだろう。
 などと思っていたら、秋月さんがこちらに顔をズイ、と近づけてくる。
 別に言うほど酒臭いわけではないが、それでも吐息は酒気を帯びているし、やはり顔は赤い。
「なんです、言いたい事があるのなら言ってみなさい」
「ぅあ、いや……」
 困った。困ったので、とりあえず頭に浮かんだ言葉を口にする。
「秋月さんは今日も綺麗だな、とか」
 ふと、秋月さんの表情が変わる。
 ……寂しそうな表情に。
「貴方は、いつもそうです。私が何をしようと、何を言おうと、冗談にしたりはぐらかしたり……」
 秋月さんが、俺に聞こえるかどうかという声量で呟く。
 俺は秋月さんを、何も言わずに見つめるしかない。顔が近い。あと10センチほど前に顔を進ませれば触れ合ってしまうほど、近い。
「どうしたのです。本当に何か言いたいことがあったのではないのですか?」
「いや、だから……」
 秋月さんの僅かに湿った唇から言葉が紡がれる。その動きが見える。
 この状況は、マズイ。何か、マズイ。決定的に、マズイ。
「…………」
「…………」
 秋月さんの目は、酔っているからか、少し潤んでいる。惹きこまれる瞳だ。そして、上気した頬。ファンクラブが出来てしまうほどの美人。
 見詰め合う二人。
 俺が動けず沈黙していると、秋月さんがフワリと微笑んだ。
 秋月さんが目を閉じた。そして、顔がこちらに近づいてくる。
 俺の中で、何かが堕ちた。

「あー! 秋月さんをたぶらかしてる人がいるー!!」

 飛んだ。
 ねじ切れるくらいに思いっきり体を捻って飛び退った。
「ハァー……ハァー……」
 勢いが付きすぎて壁に思いっきり激突したが、そんなことは関係ない。飛び跳ねるようにバクバク動く心臓を押さえつつ、先ほどの声の主に目を向ける。
「悪い生徒だなぁ。先生、君をそんな風に育てた覚えはありませんよ?」
 先生だった。ようやく戻ってきたのだろう。
 ゴツ。という音がしたので今度はそちらへ目を向けると、秋月さんが突っ伏して、スースーと寝息を立てていた。おそらくかなりの勢いで額を打っただろうに、そのまま寝てしまったようだ。
 俺はその場にへたり込む。頭に浮かぶ言葉は一つだ。

「助かった……」


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 というわけで、あけましておめでとうございますな感じで「題名不定」。なんか、感想とかあるとさすがに書きたくなるものです。

 日付を見ると、一昨年の11月ですかぁ。ずいぶん前ですなー。久しぶりに書いてみましたが、どんな感じでしょーか。

 あれですね。書いてる本人が言うのは何かが間違っている気がしますけれども、秋月嬢萌え。




2月24日  まったり。

 雨が降っている。
 暦の上では春という事になってはいるが、正直言ってまだまだ寒い。暖房がなければ夜など凍え死ぬかと思うほどだ。
 この天気のせいで空気も妙に冷たく、外出するのをはばかられる状態である。
 しかし、そんな中休日だというのに、俺は今傘をさしてゆっくりと舗装された道を歩いていた。
 理由は特にないといえばない。俺自身、雨は嫌いではないのだが、移動が手間になるという部分では雨天というのは歓迎出来るものではないのだ。
 ただ、朝冷え切った空気の中目を覚ましたときに、何となく家にはいたくないと思ってしまっただけである。
 朝起きると先生が居ることもあるが、毎日というわけではない。最初「毎日来る」と言っていて、事実来ていたのだが、さすがに悪いと思い今は遠慮させてもらっている。それでも来る頻度は多いが。
 目的地などはなく、ただただ気の向くままに一人歩いている。


 身体も冷えてきたので流石にそろそろ帰ろうかと思い、自宅に向かう途中だった。
 意図的に同じルートは通らないようにしていたので、少し遠回りになるが自分が通う学校のそばを歩いていると、それが聞こえたような気がした。
 立ち止まってから辺りを見渡し、意識を集中した。やはり何かの声のようなものが聞こえる。
「学校の敷地内か……」
 目の前にある柵を見つつ数秒ほど考えた後、俺は柵に手を掛けた。


 休日のうえ、雨も降っているせいか辺りに人影はない。部活でもやっているのであろう体育館の方から音が聞こえるが、雨音にかき消されてよく聞き取れない。
 私服で入っているため、教師に見つかるとやばいかなと思いつつも、声が聞こえた方へ向かった。
 近寄ると、今度は割とはっきりと聞き取ることが出来た。
 雨にぬれないように軒先にポツンと置かれた段ボール箱。その中を覗き込む。
「にゃー」
 思った通りの存在がそこにいた。
「こいつは、困ったな……」
 普通であれば誰か教員にでも面倒を押し付けて帰るか、そのまま放っておく所だ。たかが仔猫一匹、誰かが何とかするだろう。
 俺は立ち上がり、踵を返す。が、数歩進んだ所で足が止まる。
「はぁ……」
 再び振り返り、段ボール箱のそばでしゃがみ込む。
 今日は休日でこの雨である。見れば体温が下がってきているのか、震えているようだ。このまま放っておくと危ないかもしれない。……言い訳はこれくらいでいいだろう。
 溜息をついてから、両手でゆっくりと仔猫を段ボール箱から出し、胸に抱える。
「この雨の中、捨てられて独りっていうのは、シンドイよな」
 呟くように胸に抱えた仔猫に話しかけると、まるで応えるかのように「にぁー」と鳴いた。


 胸に仔猫を抱え、再び柵を越えて自宅へと向かう。
 その途中、俺には後悔の念に苛まれていた。
 何をこんな偽善者っぽいことをしているのか。そもそも俺には何の特にもならない。俺がそんなことをする理由なんてないじゃないか。善人を気取りたいだけだろう?
 そんな考えばかり頭に浮かぶ。非常にネガティブだ。あまり俺らしくない。何だと言うんだ。
 そもそもうちでは猫は飼えないのだから、できることはあまりない。……そんなことは分かっていた。では何故こんなことをしているのか。
 ふと『捨てられて独りっていうのは、シンドイよな』という先ほどの自分の言葉が思い浮かぶ。そういう事なのかもしれない。非常に鬱だ。やってられない。何故そんなことを考えなければならないのか。
 そんなことばかり考えていると、いつの間にか家に着いた。

 傘をたたんで立てかけてから、胸ポケットから鍵を取り出す。
 ロックを外そうと鍵を差し込むと…………何故か開いていた。
 瞬時に緊張が走る。家を出るときの事を思い出してみる。鍵は掛けたか? 掛けたはずだ。記憶にもある、確実だ。
 どうするか非常に迷ったが、今はあまり考える気にならなかった。
 警戒しながらそっとドアを開け、中を覗き込む。すぐに誰かいるということが分かった。俺が帰ってきたのがバレていたのか、覗き込んだときにはこちらを見ていた。
「おかえりー。どこ行ってたの?」
 俺は思いっきりドアで頭部を強打した。




 よく考えてみれば、先生は合鍵を持っているわけで。そして家に割とよく来るわけで。
 自分で何故そのことに頭が回らなかったのか、非常に恥ずかしい気持ちになってしまう。
 今、先生は暖めたミルクを仔猫に与えている。「かわいいねー」などとその背中を撫でたりして楽しそうだ。
 何となくそんな様子を俺が眺めていると先生が聞いてきた。
「ねぇ、この子どうするつもり?」
 少しだけ迷って、俺は答えた。
「一日くらいしたら元気になるだろうし、それから――」
 先生がこちらを見て微笑んでいる。
「里親でも探してみようか」
 そう言うと先生は笑みを深くし、
「じゃあ、見つかるまで大家さんには内緒だね?」
 とクスクス笑った。
 その笑顔を見て俺もつられて笑う。
 そしてこんなことを思う。
 今この時、俺だって独りじゃないんだから、この仔猫だって独りじゃなくなってもいいはずだ。
 理由なんてそれでいいじゃないか。






 ==============

 珍しくシリアス風味に。




11月3日  寝不足の朝。

 教室が非常に騒がしい。
 新しく手に入れたテレビゲームをガリガリとやっていたら朝日が昇っていた本日の俺の調子はすこぶる悪い。もう少し静かにしてもらえると机に突っ伏して寝ることも出来るのだが、いつもの朝よりも格段に騒々しい。これはアレか、嫌がらせか。
「眠そうだね?」
 声をかけられた方へ顔を向けると、幹久がやはり眠そうな表情をして立っていた。コイツも同じゲームを買ってやり込んでいたに違いない。
「お前もな」
 一つあくびして頬杖をつく。俺の席は窓際で一番後ろなので、朝の日差しをもろに浴びてやはり眠い。
「今日に限ってなんでこんなに騒がしいんだ」
「分からないのかね」
 この言い草だと、幹久はこの騒音公害の原因を知っているらしい。
「少しでも聞き耳を立ててみると内容は把握できると思うのだが……まぁ、眠くてそんな気力もなかったか」
 その通り。
「その無関心さはお前らしいが。聞きたいかね?」
「正直どっちでもいい。聞いても騒ぎは収まりそうにない」
 ふむ、と幹久は人差し指で眼鏡の位置を直し、説明を始めた。
「簡単に言えば、転入生が来る、との事だ。お前の席の隣、机が増えているだろう? そこが転入生の席になるのだろうね。それと、こんな中途半端な時期だからだろう、根も葉もない噂が飛び交っている」
 確かに、隣には一つ机が増えていた。眠かったので全然気にしてなかったが。それに、高校も2年目となったこの時期に、転校というのも確かに珍しい。何か特別な事情でもあるのだろうか。
「俺が知っているのはそんなところだ。性別は女という説が有力なようだが……どうだろうね」
 幹久にしては、情報の密度が低い。なんだかんだ言ってやっぱりコイツも眠いのだろう。
 騒がしい教室に顔をしかめながら、幹久と雑談をしているうちに、HRの時間になった。


「はい、皆おはよー」
 先生が朝から眠くなるようなゆったりした挨拶をしながら教室に入ってくる。 先ほどまでとは違い、教室内は静かになっているものの、そわそわとした空気が漂っている。
 転入生ごときでそんなに騒ぐようなことなのだろうか。それとも自分が物事について無関心なだけなのか。幹久からも、似たようなことを言われたことがある。「無関心というのは、それだけで人生を損しているよ。身につけるスキルや経験との出会いのチャンスを、その分見捨ててきているのだからね」だそうだ。そんなものだろうか。
「――とりあえず連絡事項はこれくらいかな」
 そんなことを考えていると、いつの間にやらHRは終わったようだ。ほとんど聞き流していたが、重要そうな事柄はなかったように思う。
「それじゃあ最後に。今日から皆と仲間になる転入生がいるので、紹介したいと思います」
 と先生が言った瞬間、とんでもなく教室が静かになった。
 今までも静かではあったのだが、その比ではない。皆、固唾を呑んで先生を見つめている。突然の事態に先生が目を白黒させている。……というか、怯えているようにも見える。
「え、えーと。麻生さん、入ってきてください」
 教室前方の扉へ先生が声をかけると同時に、教室中の視線がそちらへ集まる。他の人とは違い、俺だけは一種異様な教室の中を見渡していた。なんか面白いくらいに怖い。

 そして、ガラガラと僅かに音を立てながら扉が開けられていく。



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 まだ更新を待っている人がいるのかどうか微妙ですが、なんというか、久々ですね?

 多分、明日もこれです。




11月4日  始動。

 ぅぉおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオッッッ!!!


 教室がゆれた。多分、比喩なしに。
 原因としては、教室中の男子が一斉に立ち上がってガッツポーズをとり始めたことが挙げられる。そのせいで、鼓膜がビリビリと震えて耳鳴りがしている。寝不足の頭には、正直キツイ。
 男子どもは今度は近くの連中とハイタッチをして回りながら騒ぎ続けている。どうしたものか、これは。
「ちょ、ちょっとうるさいよ皆! 静かにっ、静かーにっ!!」
 先生も負けじと声を張り上げ、騒ぎを収めようとしているが、全然効果がない。……先生、皆から愛されてるけど、求心力はないんだろう。憐れな。
 寝不足で少々機嫌が悪いというのに、何でこんな騒ぎに巻き込まれないといけないのか。いまだ続く騒ぎに、ちょっとキレてみてもいいだろうか。いいよね?
 立ち上がり、決意を込めて声を張り上げようと口を開く。

「いい加減に黙りなさいっ」

 一瞬で静かになった。
 ちなみに今のセリフは俺ではない。とりあえず、俺の変わりに状況を静めてくれた、とてもよく通る声の持ち主の方に視線を向ける。
「…………」
 秋月さんが頬を染め、ちょっと恥ずかしそうな顔をして下を向いていた。
 ……うん。まぁ、なんというか。流石。と言って、いいのかどうか。
「ほら、皆ちゃんと席についてー」
 先生がぱんぱんと手を鳴らしながら促すと、今度は皆その言葉に従った。
 そういえば、転入生はどうなったのだろう。疑問に思い、探してみるとまだ扉の近くで突っ立っていた。まぁ、当然のような気もするが。
 そちらを見て、何故あんな騒ぎになったのが俺にも分かった。
「それじゃ、麻生さん、こっちに来て」
 先生がそう言って手招きをする。それに従って歩き出した転入生に、教室の至る所から溜息が漏れている。
 要するに、とんでもない美人だった。歩くたびにさらさらと流れる髪は先生よりも長く、余裕で腰丈はある。表情もキリッとしていて、意志が強そうな印象を受ける。あー、あと胸がでかい。……Eくらい?
 正直、美人度で言えば秋月さんとタメを張る。確かにこれくらいに美人であれば騒ぎにもなるかもしれない。それにしてもちょっと行き過ぎていたが。このクラスに馬鹿が多い証拠だ。
「それじゃ、さっそくだけど自己紹介をお願いね」
 そう言いながら先生は転入生の名前を黒板に書いていく。それが終わるのを待ってから転入生が自己紹介を始めた。
「名前は、麻生羽澄という。少々事情があり、この時期での転入になった。先ほどの様子から察するに、とても楽しそうなクラスだという印象を受けたが、その皆の仲間になれることを嬉しく思っている。不慣れなこともあると思うが、よろしく頼む」
 頭を下げる。「こちらこそー」、「よろしくー」という声が至る所から上がる。
 それにしても変わった喋り方をする娘だ。
「麻生さんの席は、あの空いている席ね」
 コクリ、と頷いて転入生がこちらに歩いてくる。途中、級友とすれ違うたびに「よろしく」と声を掛け合っている。口調とは違い、その印象は柔らかい。
「それじゃ、授業が始まるまで、あんまり騒がないようにね」
 そう言って先生が教室から出て行った。
「……」
 ……ん? 何か最後にこちらの方を見ていたような気がしたが、なんだったのだろう。何か善からぬ企み事をしているときの顔だったような気がするが。
 そんな事を考えていたら、いつの間にか俺の前まで転入生がきていた。社交辞令として、挨拶は必要か。
「これから、よろしくな」
「キミ、は……」
 声をかけたのだが、転入生はこちらの顔をじっと見つめたまま動かない。
「どうした、何か俺の顔についてるか?」
 訝しげに声をかけると、固まっていた転入生がようやく動き出した。
「ん? ああ、すまない。少し呆けていた。なるほど、そういう事か。先生の含み笑いの意味がわかった」
 先生? 何のことだ?
 疑問に思う俺に、転入生が握手を求め、手を差し出してくる。
「先ほど言ったように、私の名前は麻生羽澄だ。羽澄と呼んでくれていい。こちらからもよろしく頼む」
 手を握ると同時に、羽澄がふっと微笑む。そして握手を解くと、俺の隣の席に座った。
 ……むぅ。見惚れるほどの微笑だったが、他の奴にはこんな風に握手をせず挨拶だけだったような。
 って、あれ?
 何となく教室中の視線がこちらに集中している気がした。特に男子生徒からの視線が物凄く痛い。中には口の端を吊り上げ笑っている奴もいる。いや、それマジで怖いから。
 少しばかり脂汗を流していると、羽澄がこちらへ机を寄せてきた。
「なんだ、どうした?」
「まだ教科書が全て揃ったわけではないんだ。だから、まだ用意できてない教科は見せてくれると助かる」
「そういうことなら、もちろん構わないが」
 机の中から引っ張り出した教科書を、よく見えるように2人の間に置く。肩を寄せ合う格好になり、羽澄の髪の香りが分かったりして、少々心臓に悪い。
 そしてさらに男子の視線が痛くなる。やはり心臓に悪い。
 チャイムが鳴り、教師が入ってくる。
 が、なんとなくまだ教室の空気はピリピリしている。はぁー、と溜息一つ。

 俺、何もやってないよなぁ。という呟きは、羽澄にも聞こえなかったようだ。




 ============

 キーパーソン登場。

 これで一応話動かせるんですけど……実は大まかな所しか考えていません(死







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